たんぱく質を摂るタイミングは長く議論されてきました。要点はシンプルで、わたし達の身体が1日の中でたんぱく質を特に必要とする時間帯や、特に筋肉が失われやすい時間帯が存在するなら、そのタイミングに合わせてたんぱく質を摂取すると良い効果を期待できるのではないかということです。
今日はこのテーマについて研究から分かることを取り上げます。
トレーニング前後と寝る前
たんぱく質摂取のタイミングについては、特に筋力トレーニング前後と寝る前が重要と語られることが多くあります。どちらの場合も筋肉のたんぱく質合成を促進することが目的です。
トレーニング後には筋肉を作り回復させるためのゴールデンタイムがあるとされ、そのタイミングに合わせてたんぱく質を摂ることが重要と言われます。また、寝る前にたんぱく質を摂ると、寝ている間も血液中にアミノ酸がたくさんある状態を作ることができ、筋肉が分解されるのを防いだり、筋肉を増やすことにつながったりする可能性があると言われます。
筋たんぱく合成と血中アミノ酸濃度
たんぱく質の摂取タイミングがどれだけ重要かに答えを出すには、筋たんぱく合成と血中アミノ酸濃度が関わってきます。
筋肉はたんぱく質でできています。そして筋肉を作るには、たんぱく質の材料となるアミノ酸が必要です。筋肉のたんぱく質は絶えず合成と分解が繰り返されていて、たんぱく質の合成が進むと筋肉が作られます。また、古くなったり傷ついたたんぱく質は分解され、そのあとに新しく筋肉が作られます。身体の中では絶えずこのサイクルが繰り返され、合成が分解よりも進むと筋肉が増えるのです。
トレーニング後には、筋たんぱく質合成が特に促進される時間帯があり、このタイミングでたんぱく質を摂ると効果が高いのではないかと議論が続いてきました。2000年前後からは、トレーニング直後の60〜90分ほどの時間帯に栄養を摂ることが回復のために欠かせないと考えられるようになりました。そして、トレーニング後に合わせて栄養を摂ることで、筋たんぱく質の合成を高め、分解を抑えるという考えが、いくつもの研究を基に語られるようになります。(1, 2, 3)
寝る前のたんぱく質については、寝ている間はまったく栄養を摂らない時間が続くことが問題視されます。結果として、血中のアミノ酸が不足すると筋肉の分解ばかりが進んでしまう可能性が考えられます。このリスクを避けるため寝る前にたんぱく質を摂ることが勧められるようになりました。
こういった仕組みを踏まえると、トレーニング後や寝る前にたんぱく質を摂るのは理にかなっているように見えます。

たんぱく質を摂取すると合成が高まり、たんぱく質を摂取してから時間が経つと分解が進みます。グラフ内の緑で塗った範囲では合成の方が優勢で、青く塗った範囲では分解が優勢になっていることを示しています。
寝る前にたんぱく質を摂ることで、睡眠時間にも筋たんぱく合成を優勢にできるのではないかという考えはグラフのようなイメージなのです。
研究データから答えにせまる
まず、トレーニング後はすぐにたんぱく質を摂る必要があるのか、それともある程度の時間の幅があるのかを考えてみましょう。
過去の研究データをまとめた2024年の論文で、トレーニング後に筋たんぱく質の合成が高まる反応がどの程度続くのか調べられました。79の研究で被験者は健康な成人237人、年齢、性別、トレーニング経験、トレーニング内容といった要素が分析の対象となりました。ただし、ここでは食事やプロテインは含まれておらず、運動後に起きる筋たんぱく質合成に焦点が絞られました。
トレーニング後の筋たんぱく合成の反応を個別の研究ごとに示すと以下のようになります。

この論文ではトレーニング後の筋たんぱく合成が高まった状態が最大で48時間続いたと報告しています。ただ、この論文はたくさんの研究で得られた結果を取り上げており、研究の条件によって筋たんぱく合成の反応には大きな違いが見られました。この違いを生む要因として、トレーニングの強度やボリュームによる影響も確認されました。
つまり、トレーニング後の筋たんぱく質合成の反応がどれだけ持続するかにはいろんな要因が影響するので、一概に語ることはできません。ただ、個別の研究に目を向けると実際にどういう要因が影響を与えるかを知る手がかりを得ることができます。
筋たんぱく合成の反応に影響する要素
トレーニング後の筋たんぱく合成の反応には個人差があります。以下のような要因が重なると、合成の時間が長く続きにくくなります。
【合成が続く時間が短い場合】
● 年齢:50歳以上
● トレーニング経験:上級者
● トレーニング内容:少ボリューム、低強度、対象筋が小さい
● 栄養状態:食事を摂らない時間が長い、全体のたんぱく質量が少ない
逆に以下のような要因が揃うと、合成の時間が長く持続しやすくなります。
【合成が続く時間が長い場合】
● 年齢:35歳以下
● トレーニング経験:初心者
● トレーニング内容:高めのボリューム、高めの強度、対象筋が大きい
● 栄養状態:食事を摂った状態やトレーニング後のたんぱく質摂取、全体のたんぱく質量が多い
一般的にはトレーニング後のゴールデンタイムは60〜90分と言われることが多いです。しかし、今回の論文では最も短い反応でも3時間ありました。良い条件が揃わない場合でも、トレーニング後にたんぱく質を摂るタイミングはもう少しゆとりを持っても構わないと考える材料になるかもしれません。また、トレーニング内容を改善したり、たんぱく質を十分に摂るようにすると、筋たんぱく質の合成が亢進する時間は長くなります。
食事を摂ったあとは筋たんぱく質の合成が高まります。この効果はたんぱく質20g程度から確認されています。そして、この効果は食事ごとに現れるので、たんぱく質をこまめに摂るべきだと推奨されることもあります。朝から寝る前まで大きく時間を開けずたんぱく質を摂ることで、筋たんぱく合成を高く保つという考え方です。
続いて、寝る前にたんぱく質を摂るべきかを考えましょう。寝ている間は何も食べないので、筋たんぱく合成が弱まる可能性があります。睡眠に入って早い時間帯には成長ホルモンの分泌が高まります。最後の食事をいつ摂るかにもよりますが、たんぱく質が十分に摂れていないと筋肉の修復や成長が制限されることになるかもしれません。
例えば、夕食を午後7時に摂って寝る前には何も食べない場合、次の日の朝食まで10時間以上たんぱく質を摂らずに過ごすシナリオが考えられます。これが筋肉の成長や回復を妨げるのではないかと考えることはできます。実際に、寝る前にたんぱく質を摂ると筋肉の回復や筋たんぱく合成に良い効果があったと報告する研究もあります。
ここまでの内容を整理すると、筋肉の回復や成長にはいろんな要因が関わっています。年齢、トレーニング内容、栄養状態といった条件に加えて、たんぱく質の摂り方も考えるべきでしょう。特に、トレーニング後や寝る前にたんぱく質を摂ると効果が高まる可能性があると言えそうです。
たんぱく質のタイミングは本当に重要なのか?
筋肉の回復や合成に大きな影響を与える要因がもうひとつあります。それは1日全体での摂取量です。1日に必要なたんぱく質を確保できていれば、いつたんぱく質を摂るかは重要度が下がると考えられます。
ここに答えを出すためには、全体でのたんぱく質摂取量とタイミングを切り分けて考える必要があります。1日に必要なたんぱく質を確保できていても、特定のタイミングで摂ることで効果を高めることができるのかがポイントになります。
また、タイミングによる影響があったとしても、ある程度の時間の範囲に摂れていれば効果に違いがないとすれば、特に意識しなくても普通に生活するだけで効果を得られる可能性もあります。つまり、トレーニング直後や寝る直前のようにピンポイントのタイミングを狙い撃ちする形で摂る必要があるのかが重要になります。
この疑問に答えを出すには、たんぱく質を1回摂ると、そのたんぱく質をすべて体内で有効に使うことができるのかが重要な手がかりになります。もし、たんぱく質を使える量に限界があって、1回にまとめてたくさん摂っても使いきれずに無駄になってしまうのであれば、間隔を開けたり、特定のタイミングを狙ったりする意味が大きくなるはずです。
これに関しては、2023年の研究が参考になります。この研究では1回の食事でたんぱく質を100g摂る場合と25g摂る場合が比較され、100gの方が筋たんぱく合成が大きく高まりました。この研究では、食後12時間まで筋たんぱく合成の変化を観察しました。以前の研究では4時間までの観察にとどまっていて、この違いが重要な発見につながりました。長時間観察を続けると、たんぱく質の摂取量が多い方が効果が長く持続することが確認されたのです。
従来の研究では反応を確認できる範囲が限られていたので、一度にたんぱく質を多く摂ると体内ですべてを合成に利用できず、使いきれなかった分は酸化されると考えられていたのです。

たんぱく質摂取量とタイミングの関係は?
1回の食事でたくさんたんぱく質を摂ると、筋たんぱく合成を高める効果が大きくなることが分かりました。これはタイミングを考える上で何を意味するのでしょうか。
実生活で分かりやすい感覚として、こう考えると答えに近づきます。
● トレーニング前に食べたたんぱく質がまだ身体の中に残っていれば、トレーニング直後にプロテインを摂る意味は小さくなる
● 夕食でしっかりたんぱく質を摂っていれば、寝る前にたんぱく質を摂る意味も小さくなる。
記事前半で紹介した研究では、トレーニング後にたんぱく質を摂ることに意味がありそうに見えました。その理由は、こういった研究では何も食べていない状態でトレーニングを行い、反応を観察するのが一般的だからです。何も食べていない状態では、体内のたんぱく質が不足していて、筋たんぱく質の分解が進んでいます。
そういう状態でトレーニングを行った後たんぱく質を摂れば、筋たんぱく質の合成や回復に良い効果が出るのは自然なことです。つまり、トレーニング後にたんぱく質を摂ると効果が高まるかを考えるときには、トレーニング前にたんぱく質を摂れていたかがポイントになるのです。
こういったことを踏まえて、2020年に過去の研究をまとめた論文では、全体でのたんぱく質の摂取量が十分であれば、特定のタイミングを狙ってたんぱく質を摂っても効果が高まるとは言えないと報告されています。
さらに、2024年におもしろい研究が行われています。この研究では、たんぱく質をトレーニングの直前と直後に摂る場合と、トレーニングの3時間前と3時間後に摂る場合を比べました。そして、体組成や筋力パフォーマンスの変化を観察したところ、1日全体での摂取量が同じであればタイミングによる違いは見られませんでした。
ここでは全体でのたんぱく質摂取量が同じなら、タイミングによって効果が高まるわけではないというのが重要なポイントです。同じような結果が他の研究でも報告されています。
ただ、すべての場合でたんぱく質のタイミングに意味がないとまでは言えません。トレーニング前にあまりたんぱく質を摂らない人は、トレーニング後にたんぱく質を摂るのは賢い選択になるでしょう。ただ、それは体内に十分なたんぱく質がない状態を避けるという意味合いです。今回のテーマは、空腹ではない状態でもトレーニング後に摂ることに効果があるのかということです。そして、この疑問に答えを出すために条件を揃えていくと、そういう特別な効果は確認できないわけです。
また、寝る前のたんぱく質摂取についても同じように考えることができます。
ただ、寝る前に摂る効果を調べた研究には課題があって、1日全体のたんぱく質摂取量を管理していない場合が多く混ざっています。つまり、寝る前にたんぱく質を摂ると全体のたんぱく質摂取量も増えることになります。そうすると、効果が出た場合にその理由は摂取量が増えたからなのか、寝る前に摂ったからなのか区別できなくなるわけです。
しかし、寝る前にたんぱく質を摂ると効果があったと報告している研究は、すべてのケースで全体の摂取量も増えているので、おそらくタイミングによる効果ではないと考えることができます。これを実生活に置き換えて考えると、夕食でしっかりたんぱく質を摂っていれば寝る前にこだわって摂る必要はないだろうと考えられます。
実生活に取り入れるためのまとめ
ここまで理論的に考えられることや研究で得られたデータを紹介してきました。たんぱく質を摂るタイミングに関する研究を見ると、特定の時間帯に摂ることよりも1日を通して必要量を摂ることが重要なのだと見えてきます。
人間の身体はわたし達が考えるよりもうまくたんぱく質を使ってくれるようです。1日を通して必要なたんぱく質を確保していれば、効果を取り逃すことがなさそうです。
もし、特定のタイミングでたんぱく質を摂ることに効果があったとしても、その効果は小さなもので実生活で実感するのは難しい程度にとどまるでしょう。こういった効果が本当に存在するのかを明らかにするのは今後の研究の課題となります。
ここまでの内容を実生活に取り入れるためのポイントをまとめます。
● トレーニング後にたんぱく質を摂るタイミングは60〜90分にこだわる必要はありません。90分を過ぎてもたんぱく質はちゃんと活用されます。
● トレーニング後にたんぱく質を摂っても特別は効果はないかもしれませんが、特にトレーニング後を避ける必要もありません。生活スタイルやトレーニング環境的にトレーニング後が摂りやすければ、積極的に摂ってまったく問題ありません。
● トレーニング前に何も食べない場合は、トレーニング後にたんぱく質を摂るように意識するのは良いことです。
● 寝る直前にたんぱく質を摂っても特別な効果は期待できないかもしれません。ただ、寝る前に十分なたんぱく質を確保するのは良いことでしょう。そのためには、夕食時にしっかり摂る方法も寝る直前にプロテインを摂るような方法も考えられます。
● 筋たんぱく合成には個人差があり、年齢、食事回数、トレーニング内容などが影響します。どういう食生活が最適かご自身に合わせて考えることは意味があるでしょう。
● トレーニング効果を最大化するには、1日全体でのたんぱく質摂取量を確保することの方が重要です。たんぱく質をいつ摂るかは効果よりも実生活のやりやすさで決めると良いでしょう。
原文:Leigh Peele
翻訳:八百 健吾