プロも知らない基礎代謝のカラクリを科学する

基礎代謝のカラクリ

基礎代謝という言葉は耳なじみのある人が多いでしょう。これは、人間が身体を保つために必要とするエネルギー量のことを言います。わたし達は何もしなくても内臓が働き、細胞やたんぱく質が新しく作り替えられています。1日まったくベッドから出なかったとしても、こういった体内の活動のためにエネルギーが使われているのです。

世の中には基礎代謝を推定するための計算式がたくさんあり、年齢、体重、性別の組み合わせで推定値を出すタイプや、除脂肪体重に基づいて推定値を出すタイプがあります。こういった要素は基礎代謝と関連があり、例えば体重が重い人は基礎代謝が大きい傾向があるので参考になるということです。ただ、体重や性別が基礎代謝を決めているかと言えば必ずしもそうではありません。

実際のところ、基礎代謝を決めているのは次の2点です。

  • 体組成
  • 体組織ごとの代謝率

わたし達の身体にはさまざまな組織があり、普通に機能を維持するだけでたくさんのエネルギーを必要とする部分もあれば、そうでない部分もあります。例えば、筋肉は体脂肪よりも維持するだけでカロリーを多く消費するという話を聞いたことがある人は多いでしょう。

筋肉の代謝率は1kgあたり約13kcalで、体脂肪は約4.5kcalです。例えば、筋肉を10kg増やして体脂肪を10kg減らすと表面的には体組成が大きく変化しますが、これで生まれる基礎代謝への影響は1日85kcal程度ということになります。まったく無意味とまでは言えませんが、劇的な変化とも言えないでしょう。

組織の代謝率全体の変化
筋肉10kg増量13kcal / kg+130kcal+85kcal
体脂肪10kg減量4.5kcal / kg-45kcal

このように、実は筋肉を維持するためのカロリー消費量はそれほど大きくないのですが、ここでは組織によってエネルギー消費量が違うということが重要です。

わたし達の身体の中で特にたくさんエネルギーを必要とするのは、心臓、腎臓、脳、肝臓です。それぞれ1kgあたりの代謝率を見ていくと、心臓と腎臓は約440kcal、脳は約240kcal、肝臓は約200kcalとなります。この4つの部位を合計すると、体重の5%以下の重さにしかなりませんが、たいてい基礎代謝の50%以上を占める計算になります。

重さ1kgあたりの代謝率全体の代謝率基礎代謝に占める割合体重に占める割合
肝臓1.5kg200kcal300kcal16.7%1.9%
1.5kg240kcal360kcal20.0%1.9%
心臓0.37kg440kcal163kcal9.1%0.5%
腎臓0.26kg440kcal114kcal6.4%0.3%
筋肉32kg13kcal416kcal23.2%40.0%
脂肪組織12kg4.5kcal54kcal3.0%15.0%
その他32.37kg12kcal388kcal21.6%40.5%
80kg22.4kcal1796kcal100%100%

これらの数字から重要なことは、筋肉や体脂肪よりも内臓の影響が大きいということです。基礎代謝を決める要素として体組成を挙げたのは、筋肉と体脂肪のことではなく、内臓のことでした。例えば、体重と体脂肪量が同じ人を比べて、一人の内臓が平均よりも20%大きく、もう一人は平均より20%小さいということは現実的に起こります。

体重や除脂肪体重の数字だけを見ると二人は同じになりますが、内臓まで目を向けると二人の体組成はまったく違うということになります。そして、この二人の基礎代謝を比べると大きな違いがあるはずだと考えることができます。例えば、先に挙げた腎臓、脳、肝臓が20%ずつ平均からズレていたら、この二人の基礎代謝は230kcalほど違うと想定できます。

先ほど10kg筋肉を増やして10kg体脂肪を減らしたら基礎代謝の変化は85kcal程度と話しました。つまり、現実的にあり得る内臓の個人差で、その3倍の違いを生んでしまう可能性があるということです。

基礎代謝を推定する計算式は、理論上考えられる範囲で最も正確なものでも300〜400kcalほどの誤差を生むと想定できます。100%正確な値を出せるものではないのですが、大まかな推定値を出すという意味ではうまく機能していると言うこともできます。こういう計算式で大きくは外れない値を出せるのは、年齢、性別、身長、体重、除脂肪体重といった要素は、内臓などの重要な要素と関連しているからです。例えば、若い、男性、高身長、除脂肪体重が大きいといった条件に当てはまる人は同時に内臓が大きく、結果的に基礎代謝が高い傾向があるということです。

しかし、最も正確な計算式でも300〜400kcalほどの範囲で誤差を生むので、過信はできません。この誤差は計算式の成り立ちを見ると理解できます。計算の際に考慮される年齢、性別、身長、体重といった要素は筋肉や体脂肪の量を推定するのに有効です。そして、筋肉や体脂肪は基礎代謝に与える影響がそれほど大きくありません。つまり、筋肉や体脂肪の推定値に多少の誤差があったとしても、そのせいで基礎代謝の推定値がズレてしまう心配は大きくないと言えます。

その一方で、年齢、性別、身長、体重といった要素は内臓の大きさを推定するのにはあまり役に立ちません。しかし、先に紹介したように心臓、腎臓、脳、肝臓といった組織はたくさんのエネルギーを消費していて、基礎代謝に大きな影響を与えます。つまり、内臓の大きさを正確に推定できないと基礎代謝の推定値に大きな誤差を生む要因になるのです。

年齢、性別、身長、体重、それから全体の除脂肪体重(筋肉、内臓を含む)といった要素から内臓の大きさを推定するのは難しいわけですが、MRIのような機器を使えば内臓の大きさや重さをもっと正確に測定することが可能です。そして、基礎代謝をもっと正確に推定することも可能になります。誤差は平均150〜200kcal(最大で400kcal以上)だったものが、60〜100kcal(最大で150〜200kcal程度)にまで縮小されます。

MRIを使うと内臓の重さをより正確に把握することができ、これによって計算式の推定値と比べて基礎代謝を2〜2.5倍の正確性を持って推定できるようになるのです。これは減量による基礎代謝の変化を推定するときにも使えます。

MRIで得られる内臓の重さも完璧に正確ではありませんが、誤差の程度は小さくなります。あとは、内臓が消費するエネルギー量の個人差を考慮すると、基礎代謝の推定値の誤差を大部分説明できることになります。

ここまでの要点をまとめると以下のようになります。

  • 基礎代謝は筋肉、体脂肪だけでなく内臓も含めた詳細な体組成、そして各組織のエネルギー消費によって決まる。
  • 基礎代謝を推定するのは、詳細な体組成を推定しているに近いと言える。
  • 心臓、腎臓、脳、肝臓といった組織は筋肉、体脂肪、骨といった組織よりもエネルギー消費が大きく、基礎代謝への影響がずっと大きい。
  • 年齢、性別、身長、体重、全体の除脂肪体重といった要素は基礎代謝への影響の少ない組織の大きさ(重さ)を推定するのに有効だが、影響の大きな組織にはあまり役立たない。これが理論上最も正確な計算式を使っても基礎代謝の推定値に誤差が生まれる要因になっている。

このことを確認できる研究をもう少し紹介します。

基礎代謝の計算式にカニンガム式というものがあります。特に正確性の高い計算式で、以前はマクロファクターのアプリ内でも使っていました。実際の式は以下のようなものです。

基礎代謝 = 21.6 × 除脂肪体重 (kg) + 370

式の前半は「除脂肪体重1kgあたり21.6kcal消費する」という考えを表しています。基礎代謝は除脂肪体重が強く影響する前提で見ると、この部分は理解しやすいはずです。

後半部分には「+370」とありますが、これはどういう働きをするのでしょうか?この式を額面どおりに受け取ると、除脂肪体重が0kgの人は基礎代謝が370kcalになるという答えを出せてしまいます。しかし、もちろん除脂肪体重0kgの人間は存在しないので、そういう人を想定した計算式は必要ありません。現実には、大人の人間は小柄な人でも除脂肪体重が30〜35kg程度はあります。

除脂肪体重がそのまま基礎代謝を決めるのであれば、「21.6 × 除脂肪体重」で済んでしまうのですが、実際にはそうではありません。除脂肪体重が大きくなるほど、1kgあたりの基礎代謝の増え幅は小さくなっていきます。そして、式の後半にある「+370kcal」はこのことに対応しています。

実際に計算例を見てみましょう。例えば、体重50kgで体脂肪率が20%の人は、除脂肪体重が40kgになります。この人の基礎代謝をカニンガム式で推定すると、1234kcalとなります。このとき除脂肪体重1kgあたりの消費カロリーは30.85kcalとなります。次に、体重100kgで体脂肪20%の人なら除脂肪体重は80kgです。同じようにこの人の基礎代謝を計算すると2098kcalとなります。さきほどの人と比べて除脂肪体重は2倍になりますが、基礎代謝は2倍になりません。除脂肪体重1kgあたりの消費カロリーは26.23kcalとなります。

除脂肪体重が増えるほど、1kgあたりの消費カロリーの増え幅が小さくなることは実際に確認されています。2002年の研究で、除脂肪体重が大きくなるほど基礎代謝の絶対値は大きくなることが観察されました。

グラフ:除脂肪体重に対する基礎代謝の絶対値

しかし、除脂肪体重1kgあたりに換算するとカロリー消費量は小さくなることが示されています。

グラフ:除脂肪体重1kgあたりの基礎代謝

さらに、除脂肪体重が大きい人は筋肉、骨、脂肪組織の脂肪以外の部分といった「エネルギー消費の少ない組織」が大きいのだということも観察されました。

 

グラフ:エネルギー消費の少ない組織が除脂肪体重に占める割合

2011年の研究でも、除脂肪体重と基礎代謝の関係を理解する材料が得られます。この研究では、MRIを使って被験者の体組成が詳しく測定されました。MRIを使うとエネルギー消費量の多い組織(主に内臓や脳)と少ない組織(筋肉や体脂肪)を区別して捉えることができます。そして、エネルギー消費量の多い組織が除脂肪体重に占める割合が人によってどう違うかを調べることができます。

そして、除脂肪体重が大きくなるほどエネルギー消費量の多い組織が占める割合は小さくなると考えられると示されました。除脂肪体重が大きい人は筋肉や体脂肪などの割合が大きく、内臓や脳が占める割合は小さくなっていくということです。

グラフ:エネルギー消費量の多い組織が除脂肪体重に占める割合

ここまでの情報で、基礎代謝に最も大きな影響を与えるのは脳や内臓といったエネルギー消費量の多い組織だと分かりました。そして、年齢、性別、身長、体重、全体の除脂肪体重といった要素から筋肉や体脂肪の量を推定するのは比較的正確に行えますが、脳や内臓の大きさを正確に推定することはできません。これが基礎代謝を正確に推定することに限界がある理由です。

自分に合った食事量を考えるにあたって自分の基礎代謝を正確に知ることには意味があります。マクロファクターはできるだけ正確なプログラムを提供できるよう、ここに紹介したような研究に基づいて設計されています。年齢、性別など基礎代謝に影響を与える要素は他にもあるので、今後の記事で紹介していきます。ぜひお楽しみに!

原文:Greg Nuckols

翻訳:八百 健吾

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