糖質制限はダイエットのスタイルとして根強い人気があります。糖質制限ダイエットを選ぶ人のほとんどは、体形改善や健康改善を目的にしています。
炭水化物を制限すると、カロリーを制限することになります。カロリーは基本的に三大栄養素から摂るものですが、どの栄養素をどれだけ摂るかを考えて実践するには知識も手間も必要になります。
それで、炭水化物に狙いを絞って制限すると、食生活がシンプルになります。細かなことを考えなくてもカロリー制限が可能で、結果が見えやすいことも人気の背景にあるでしょう。
しかし、わたし達の食生活の中で炭水化物は大切な役割を持っています。今回の記事では、単なるカロリー源としてではなく、さまざまな栄養面や運動に与える影響などを取り上げて、炭水化物の必要量について考えます。
炭水化物は必須ではない?
栄養学の世界では、炭水化物は「必須栄養素」ではないと言われます。必須栄養素とは、わたし達の体内で合成できない栄養素のことです。体内で作れないから食事から摂取する必要があるということです。
たんぱく質と脂質は必須とされるのに対して、炭水化物が必須でないと言われるのはどういうことでしょうか。
まず、たんぱく質に関して言えば、食べたあと体内でアミノ酸に分解されます。わたし達の身体が使うアミノ酸は20種類あり、そのうち9種類は体内で合成できないので「必須アミノ酸」とされます。たんぱく質が必須栄養素とされるのはこのためです。
脂質に関しては、わたし達が摂取する脂質の大部分は非必須とされていますが、オメガ3やオメガ6といった一部の脂肪酸は食事から摂取する必要があります。
体内で合成できない栄養素が必須とされるわけですが、体内で合成できるものは食事から摂らなくてもいいということではありません。
このことを踏まえて、炭水化物について考えましょう。
炭水化物には糖類やでんぷんが含まれ、体内でブドウ糖に分解されます。ブドウ糖はエネルギー源として使われたり、体内に蓄えられたりします。
わたし達の身体は、糖新生というプロセスを通じて他の栄養素からブドウ糖を合成することができます。ブドウ糖は体内で作り出すことができるので、炭水化物は「必須栄養素」とはされていないということです。
このことを根拠に、炭水化物を摂る必要はなく、糖質制限は理にかなったダイエット法だと考える人がいます。
たしかにわたし達の身体はブドウ糖が必要なとき、体内で合成することができます。しかし、必要なブドウ糖をすべて体内の合成で賄うのが理想的であるとは限りません。
糖質制限ダイエットとは何か?
世の中にはさまざまな糖質制限のスタイルがあります。炭水化物の量をどの程度制限するかがポイントで、以下のように分類されることがあります。
糖質制限ダイエット
1日のカロリー摂取量に対して炭水化物の占める割合が30%以下。 通常は1日の炭水化物摂取量が60〜130gほどになる。
超糖質制限ダイエット
1日のカロリー摂取量に対して炭水化物の占める割合が10%以下。 通常は1日の炭水化物摂取量が20〜50gほどになる。ケトジェニックダイエットもこの水準になる。
食べ物をうまく選ぶと糖質制限でも健康的な減量を成立させることは可能です。
例えば、1日のカロリー摂取量が2000kcalで、そのうち30%を炭水化物から摂るとすると約150gになります。この量は多くはありませんが、食べ物をうまく選べばブドウ糖以外に大切な栄養素を確保することは可能です。
あとは身体活動時のエネルギーを確保できるかですが、一般的なデスクワーク中心の人や、筋トレなどの無酸素運動を少し行う人にとっては必要十分と言えるでしょう。
しかし、超糖質制限食では、かなり綿密に食事内容を吟味しないと食物繊維やビタミン・ミネラルが不足するリスクがあります。また、運動時に力が出なくなったり、筋肉の成長に問題が生じる心配もあります。
糖質制限とビタミン・ミネラルの関係
炭水化物源となる食品は、炭水化物だけでなくビタミンやミネラルも含んでいます。つまり、糖質制限ダイエットで炭水化物を減らすと、ビタミンやミネラルを減らすことにつながります。
特に果物や野菜はビタミン・ミネラルの摂取源として重要です。ビタミンやミネラルにはさまざまな種類があって、たんぱく源や脂質源となる食品にも含まれていますが、野菜や果物を摂らないと特定の種類が不足して栄養に偏りが出るリスクが高くなります。
他の食品から必要量を摂ろうとすると、全体のカロリー摂取量が非常に大きくなってしまったり、珍しい食品を買うことになったりすることがあります。
もうひとつ重要なのは、ひと口に炭水化物と言っても、野菜や果物と砂糖でできたお菓子では栄養価がまったく違うという点です。
つまり、炭水化物をたくさん含んだ高カロリーの食事であれば、自動的にビタミンやミネラルを摂れるというわけではありません。
例えば、野菜や果物から摂れる栄養素にビタミンCがあります。他の食品から摂れないわけではありませんが、一般的ではありません。
動物性食品からビタミンCを摂取しようと思えば、レバーや肺を意識的に食べる必要があります。
ビタミンC不足は健康リスクを招きます。昔は壊血病という病気に苦しんだ人が多くいました。現代ではビタミンCが不足すると感染症のリスクが高まったり、結合組織の合成や修復が妨げられたりするリスクがあります。
もうひとつ例を挙げるとビタミンB9があります。葉酸とも呼ばれるもので、動物性食品にはほとんど含まれていませんが、植物性食品に豊富に含まれています。
葉酸を手軽に摂取するには、野菜、果物、豆類などが適しています。

栄養不足はどのような食生活でも起こり得ますが、糖質制限のように、三大栄養素のひとつを避けるスタイルでは特にそのリスクが高くなります。
炭水化物源の食品はたんぱく質も含む
炭水化物源の食品には、たんぱく質も含まれています。 たんぱく質は肉や魚といった動物性食品のイメージが強いですが、世界全体では、たんぱく質摂取量全体の約60%が植物性食品から摂られており、その大半は炭水化物系の食品です。

△100gあたりの含有量
動物性のたんぱく源は、カロリーに対してたんぱく質量が占める割合が大きい傾向にありますが、それでも炭水化物系の食品にもかなりの量のたんぱく質が含まれていることは重要なポイントです。
食物繊維は主に炭水化物系の食品から摂る
食物繊維はそのほとんどを炭水化物系の食品から摂ることになります。
食物繊維の推奨摂取量には情報源によって幅があります。世界保健機関(WHO)は、成人は1日25〜30gとしており、アメリカ農務省(USDA)は1000kcalあたり14gを目標としています。
食物繊維はサプリメントから摂ることもできますが、一般的にはビタミン・ミネラルも同時に含む自然食品から摂取することが望ましいとされています。

△ 100gあたりの含有量
糖質制限ダイエットでは、食物繊維を十分に摂取できない可能性があります。食物繊維には空腹感を和らげたり、体重増加を抑えたりする効果があります。
また、血糖値を安定させたり、消化器系の健康維持にも大きな役割を果たします。さらに、食物繊維を多く摂ると心疾患や2型糖尿病など生活習慣病のリスクを低下させることが知られています。
そのため、減量目的などで炭水化物を大幅に制限する場合には、食物繊維を意識的に確保することが重要です。 もうひとつ重要な注意点として、炭水化物を大幅に制限すると、その代わりとして脂質の摂取量が増える可能性があります。
脂質のなかでも特に飽和脂肪酸の摂取が増加すると、生活習慣病リスクが高まることが、研究によって示されています。
これは脂質の摂りすぎを避けたり、脂質の種類に注意したり、全体のカロリー摂取量を適切に保つことで回避可能ですが、意識を向けておくべきポイントです。
食物繊維と飽和脂肪酸は体形改善だけでなく健康にも影響を与える要因です。もし長期的に糖質制限しようかと考えていれば、こういった要素をどう食生活に取り入れるかも考えておきましょう。
糖質制限ダイエットと身体重減少
ダイエット目的で糖質制限を行う人にとっては、体重の減りが分かりやすいことが魅力のひとつとして挙げられます。
わたし達の身体は炭水化物を摂ったあとグリコーゲンという形で体内に貯蔵します。このとき、グリコーゲン1gあたり水分が3〜4g体内に蓄えられます。
グリコーゲンは筋肉に約500gと肝臓に約80g蓄えられ、エネルギーが必要なときに使われます。
つまり、糖質制限を行って体内のグリコーゲンが使われると、短期間で体重が1〜3kgほど減ることがあります。これはグリコーゲンが減ったことと、グリコーゲンに結びついていた水分が抜けたことによるものです。体脂肪が減っているのではありませんが、体重が目に見えて減るとモチベーションになる人はいるでしょう。
炭水化物を摂ればグリコーゲンは回復し、水分も戻ってきます。そして、その分だけ体重が増えます。これも大部分が水分によるもので体脂肪が増えたわけではありませんが、炭水化物を食べると太ると誤解される一因となっています。
また、炭水化物系の食品はおいしくて食べ過ぎにつながりやすいものが多くあります。そういう食品を制限することで自然と摂取カロリーが減り、体重減少につながるという側面もあります。こうした要素が合わさることで、糖質制限がダイエット法として一定の人気を保っているのでしょう。
糖質制限と運動パフォーマンス
炭水化物は運動時のエネルギー源で、力を出すために重要です。
運動時には炭水化物か脂質がエネルギー源として使われますが、炭水化物は脂質よりも素早くエネルギー源として使えるのが特徴です。そして、高強度の運動では強い力を出したり、長時間の運動では疲労を遅らせるのに役立ちます。
体内のグリコーゲンは複数の部位に分散した形で蓄えられています。運動の強度やエネルギー需要に応じて使われます。
例えば、一般的な筋トレでは筋肉内のグリコーゲン全体の減量は24〜40%にとどまりますが、筋原線維という収縮に直接関わる部位ではグリコーゲンがもっと急速に減少することがあります。持久系運動ではもっと速く減少し、グリコーゲンが枯渇すると疲労によって運動パフォーマンスを保てなくなります。
スポーツの世界では、糖質制限を行うとグリコーゲン貯蔵量が減り、それに伴ってパフォーマンスの低下が起きることが繰り返し確認されています。
筋トレと持久系運動ではグリコーゲンの使われ方に違いがあるように、運動のスタイルや体質によってグリコーゲンがパフォーマンスに与える影響には違いがあります。
しかし、運動中に疲労せずエネルギーレベルを保つ能力パフォーマンスと考えれば、炭水化物をしっかり摂っておくのは有効です。
ほとんどのトレーニーやアスリートにとっては、特別な制限や強い個人的嗜好がない限り、炭水化物を少なくとも中程度は摂るようにするのがオススメです。運動パフォーマンスという意味では、炭水化物は少ないよりは多い方が良いと言えます。
糖質制限ダイエットは筋肉の成長に影響するか?
炭水化物を摂ると筋肉を付けるのに有効かはストレートに答えの出しにくい問題です。
筋肉を増やすには十分なカロリー摂取、筋肉への刺激、継続、たんぱく質摂取など多くの要素が必要です。それだけ複雑なテーマであり、炭水化物の影響だけで説明するのは難しいのです。
これを科学的に検証しようとすると、炭水化物の影響を評価する前に、他の条件が揃っていなければなりません。さらに何をもって「糖質制限」とするかにも幅があるので、科学的に明確な答えを出すまでにハードルが多くあります。
炭水化物を厳しく制限した研究では、筋肉量の増加に関しては最適とは言えないという結果が出ています。また、ドラッグフリーのボディビルダーを対象にした研究では、減量期間は体脂肪を落とすのに糖質制限ダイエットが有効であっても、筋肥大にとっては理想的とは言えないとしています。
炭水化物の摂取量を少し増やすことで除脂肪体重の増加が見られたという研究はいくつかあります。そして、過去の研究をまとめた論文では、炭水化物をギリギリまで制限するケトジェニックダイエットはパフォーマンスや除脂肪体重の結果がやや悪くなると報告しています。
こういった研究結果を踏まえて、炭水化物を厳しく制限すると筋肉を増やせないとまでは言えません。ただ、カロリーを必要なだけ確保し、回復を促すという意味ではたんぱく質と炭水化物を組み合わせる方が効率的だと言えます。自然な条件下で筋肉を増やすのはそもそも難しいことなので、これで少しでも条件を良くできるはずです。
糖質制限は長く続けられる?
糖質制限を継続できるかは、どの程度の制限かによって大きく変わります。
穏やかな糖質制限であれば無理なく続けられる人はいるでしょう。もともと色の好みとして炭水化物をたくさん摂らない人には自然に取り入れられるかもしれません。
しかし、炭水化物系の食品を主に食事を組み立てている人にとっては難しい場面が出てくるでしょう。炭水化物が好きでたくさん摂ってきた人には制限がストレスとなるはずです。
他には、ベジタリアンやビーガンのような食事スタイルを選ぶ人は、炭水化物系の食品を制限すると食べられる食品が偏ってしまうリスクが高いです。
研究の世界では、厳しい食事制限や食習慣を継続した場合の効果については、さまざまな結果が報告されています。標準的な糖質制限であれば、長期的に良好な結果が得られる可能性が比較的高いですが、ギリギリまで制限しようとすると継続が難しくなるようです。
まとめ
栄養学では炭水化物は「必須栄養素」には分類されません。それは、わたし達の身体が他の栄養素からブドウ糖を合成できるからですが、炭水化物は優秀なエネルギー源となるだけでなく、ビタミン・ミネラルといった栄養を確保するためにも重要です。
一般的に言って、中程度の糖質制限ダイエットは個人の健康目標や好みに合致していれば効果を期待できます。しかし、炭水化物をギリギリまで制限する場合には、栄養不足や運動能力の低下につながるリスクがあるため、十分に注意しましょう。
ほとんどの人にとって、炭水化物を適度に含めたバランスの取れた食事が、現実的かつ健康的な選択肢になると言えるでしょう。